2014年03月13日
突然だが、私はベーコンが好きだ。
パックに入った薄っぺらいベーコンをカリカリに焼いて食べるのが良い。
その横に半熟の目玉焼きを添えて、ベーコンエッグにするとなお良い。
『ハウルの動く城』を観た翌朝には、分厚いブロックベーコンを焼いて食べるのも良い。ああ、うちのコンロがカルシファーだったら、などと思いながら、フライパンでジュージュージュージュー……。観ていなくても食べれば良い。
朝食にベーコンさえあれば、その日一日の活力が湧いてくる。
ベーコンは私の源なのだ。
そんなベーコン好きの私が、本作を手にしたのは偶然か、はたまた運命なのか。
ヤマシタトモコさん作、『くうのむところにたべるとこ』(マーガレットコミックス)は、恋と食欲を謳うオムニバス作品。
そのコミックス本体に巻かれているのは、素敵なことにベーコン柄の帯だ。
食とエロスとイマジネーション。
どれも人間が生きていくのに欠かせない要素。
それが女性でも男性でも、若くても老いていても。
食事をともにすれば、その人となりが多少なりとも見えてくる。
そして、誰かが何かを食べる動作は、驚異的なエロティシズムを発揮するものだ。
本作は、そんな食と恋にまみれた人々の、とある一場面を描いたオムニバス形式の作品である。
<dish 1 焼肉をはさんで女がふたり。>
“ ……知ってる? 肉に含まれるコレステリンと性欲の関係 ”
“ その話はあんたと焼肉来るたび聞いてる ”
<dish 2 生ハムを前に男は妄想。>
“ ぼくは食い逃げを待っています ”
<dish 3 糠に手を入れ、女が思う。>
“ たとえば わたしの体の中に こんなふうに手を さしこまれて深く
きもちのいいところを発見されて とかいってまあ 処女なんですけど ”
<dish 10 恋を知らない者にはソーセージの奇跡を。>
“胸踊る 血湧き肉踊る 体も踊りだすような
わたしからはるか遠くの 美味なる恋しきスリルも
たとえば あの人みたいに 黒ビールを飲みながら待っていれば
訪れる日もあるのだろうか”
物語の舞台となる場所はさまざまだ。
それに比例して、登場人物の肩書きも頭の中にある思いも多種多様である。
同じ空間に居て、同じ時間を過ごしてみても、それぞれに思うことは違う。
とってもオシャレで素敵に見えるあの人だって、心の中では全く別の事を考えていたりするのだ。
一見何の関係も、繋がりもないような彼ら。
けれど、実は深く繋がっている。
よくよく考えてみれば自分が気付いていないだけで、接点なんてものはこんなにも、世の中に溢れかえっているのかもしれない。
これがなんだかとっても面白い。
人間って面白い、と彼らの行動に、発する言葉に、無性に愛おしさを感じた。
さて、おしゃべりはここまでにして。
今宵のディナーは、恋と食欲を謳うオムニバスのベーコン巻き。
皆さんもどうぞ、お手にとって召し上がれ。
(評:ラノコミどっとこむ編集部/やまだ)