2013年10月30日
「おかしいな。俺の足元、知らぬ女児」
古今東西、創作の世界では、様々な形のボーイミーツガールストーリーが存在しますが、こんな一言で始まる男女の出会いもまた、運命の出会いなのかもしれません。
奥山 ぷくさん作、『Baby,ココロのママに!』(ポラリスCOMICS)には、そんな一風変わった出会いを経験した、1人の男子大学生が登場します。
主人公・路地 静流(ろじ しずる)は、ネガティブだけど根は前向きな大学生。
そう、彼は、たとえ道行く華の女子大生たちがキャピキャピと頭の悪そうな恋愛トークを繰り広げていても「黙れメス豚共! 」などとは決して言わずに心の中だけで悪態を吐く、大変奥ゆかしい(自称)ピーチボーイなのです。
そんな彼にも想い人がいました。
そのお相手の名前は奈々さん。外見は勿論、中身も大変可愛らしい女性です。
路地 静流、19歳にして初めての恋。
それはネガティブな彼を前向きな行動へと導くものでした。
寒空の中、休日にたったひとり、彼女行きつけの公園で2時間待つ路地青年。
ストーカーじゃありません。純愛です。
しかし、そんな彼を待ち受けていた運命の出会いは、彼自身、思いもよらぬものだったのです。
「おかしいな 俺の足元 知らぬ女児」
想い人の姿を今か今かと浮足立ちながら待ち続けていた彼の足元にいたのは、なんと、自分のことをママ呼ばわりする小さな女の子でした。
「お前迷子?」
「まいだこころです!」
偶然出会ってしまった、米田 心(まいだ こころ)という幼女。
しかし、この出会いが路地の生活を一変させ、更には想い人である奈々さんにも急接近することに……!?
といったこの物語。
その最大の魅力は、ぐいぐい来るちびっこの心ちゃんと、それに振り回されながらもうまくやっている路地青年の交流です。
えっ? 路地青年の恋? うん、それはまあ置いておいて。
基本的に無口で、喋るよりもまず行動するというやんちゃちびっこの心ちゃん。
とにかくその一挙一動がものすごく可愛いんです!
その上、幼児特有の同じことを飽きるまで何度も繰り返す遊びにキャッキャしながらも、背景にゴゴゴゴゴゴゴをまとわせ(しかもそれが妙に似合っていて)、凄みを感じさせてしまう保育園児なんて、世界広しと言えど、心ちゃんぐらいでしょう。
一方の路地青年。
彼は人付き合いが苦手と言いながらも、人間観察をよくしています。
というより、面倒見がすごくいい。
小さい子を小さい子扱いしない。
恐らく路地自身は意識していないと思いますが、心ちゃんのことを米田 心というひとりの人間として扱っているように見えます。
なんせ、まだうまく喋れないお年頃、可愛い盛りの保育園児・心ちゃんのことを「まいだ! 」呼びです。
名字って! 幼児、しかも女の子を名字呼び捨てって! なかなかできる芸当じゃありません。
心ちゃんもそんな路地を面白がっているのか、はたまたその内面を見抜いたのか見る見るうちに彼になついていきます。
同級生の友人、チャライケメンの橘 真咲(たちばな まさき)も、ネガティブなんだかポジティブなんだかよくわからないが基本優しい、そんな路地の心根を理解しているからこそ、いつも一緒に居るのかもしれません。
(あと単純に、一緒にいると何かおもしろそうなハプニングが起こって主に路地に全て降りかかりそうだからかもしれません)
小さい子って初対面で人見知りする子は多くいますけど、そうじゃない子って基本戦法がガンガンいこうぜ! だったりします。
パーソナルスペースなんて概念、彼らには通用しません。
心ちゃんは何故か路地青年のことを、ママ、ママと呼んでいますが、その姿は親に対するものよりも、同年代のおともだちに接するような感じに見えます。
あれ…… 要は路地青年、大人だと思われていない?
なにはともあれ、デコボコのように見えて、どこかぴったり噛み合う不思議なこのコンビ。
ママと呼ばれた路地青年と、まいだと呼ばれる心ちゃん。
クスッと笑えて、ほっこりする。
そんな何度も読み返したくなる温かさを持った作品でした。
(評:ラノコミどっとこむ編集部/やまだ)